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東京地方裁判所 平成2年(ワ)885号 判決 1991年6月24日

原告

小林和夫

右訴訟代理人弁護士

早川忠孝

河野純子

右訴訟復代理人弁護士

濱口善紀

被告

小林昭二

右訴訟代理人弁護士

篠田暉三

被告

大野奉征

城南信用金庫

右代表者代表理事

真壁実

右訴訟代理人弁護士

浅井通泰

主文

一  原告と被告小林昭二、同大野奉征との間において、別紙預金債権目録記載の預金債権のうち金一四三八万八五二円が原告に帰属することを確認する。

二  被告城南信用金庫は原告に対し、金一四三八万八五二円及びこれに対する平成元年六月九日から同月一八日まで年0.26パーセント、同月一九日から平成元年一一月五日まで年0.38パーセント、同月六日から支払い済みまで年0.5パーセントの割合による金員を支払え。

三  原告の被告ら三名に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告小林昭二の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一原告と被告小林昭二、同大野奉征との間において別紙預金債権目録記載の預金債権が原告に帰属することを確認する。

二被告城南信用金庫は原告に対し、金一四七四万六四三〇円及びこれに対する平成元年六月九日から支払い済みまで年0.5パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一原告と被告小林昭二(以下「被告昭二」という。)は、兄弟であり、原告の相続した借地権の一部と被告昭二の相続した借地権とを併せて売却したが、右の売買代金のうち、被告昭二の取り分を除く代金について被告昭二が更に、自分にも取り分があると主張して原告とその帰属を争い、同席した被告大野奉征(以下「被告大野」という。)を加えて三名連名で被告城南信用金庫(以下「被告金庫」という。)に右の代金を別紙預金債権目録記載のとおり預金(以下「本件預金」という。)したが、これは全額原告に帰属すべきものであるとして、原告から被告昭二、同大野に対しその確認を、被告金庫に対しその支払いを求めた事案である。

二被告らの主張

1  被告昭二は、売却した借地権の面積割合だけを考えれば、本件預金は原告の取得すべきものであるが、坪当りの価値としては原告の借地権より被告昭二の借地権の方が高価であり、また、本件売買に際し、被告昭二は原告が負担すべき費用を立て替えて支払っており、更に被告昭二は原告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求債権及び不当利得返還請求債権を有しているのであるから、右の借地権価格の差額及び原告が負担すべき費用並びに原告の被告昭二に対する右債務を控除した残額が原告の取得すべき金額であり、全額が原告に帰属するとの請求を争う。

2  被告大野は、本件預金の帰属について原告と被告昭二との間に争いがあり、そのため被告昭二の依頼により預金名義人となったもので、原告の現金受領を妨害する意思はない。

3  被告金庫は、本件預金は三名の連名となっており、その間に争いがあり、債権者を確知できないので、支払いをしていないに過ぎない。

三争いのない事実

原告とその弟である被告昭二は、昭和六一年一月二八日、東京家庭裁判所で成立した調停(以下「本件調停」という。)により、被相続人小林信の遺産である別紙不動産目録一記載の借地権及び同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)について原告が右借地権の内の五二坪を、被告昭二が右借地権の内の三〇坪と本件建物を相続した。

被告昭二は、本件調停の段階から同被告の取得した借地権の処分を希望し、その後、地主である長泉院に対し借地権譲渡の承諾を求めるとともに、本件建物に居住する借家人との明渡交渉を始めたが、明渡交渉は進展しなかった。そこで、同被告は妻の親戚である被告大野に対し、右明渡交渉を委任し、被告大野の仲介により、昭和六三年四月八日、関係者と和解ができ、借家人は同月末日までに本件建物から退去した。

そこで、被告昭二は被告大野に借地権処分の交渉を委任し、被告大野は、東急リバブル株式会社(以下「東急リバブル」という。)に仲介を依頼し、同年五月二七日、地主長泉院代理人八木良夫弁護士の事務所において、同弁護士、被告昭二、被告大野、東急リバブル社員二村喜恵子が立会い、長泉院、被告昭二、原告との間で次のとおり合意が成立した。

1  被告昭二と原告は、被告昭二の借地権三〇坪と原告の借地権の一部である五坪とを一括処分することとし、長泉院に対し、右三五坪の借地権(以下「本件借地権」という。)の譲渡について所定の承諾料を支払う。

2  長泉院は、被告昭二及び原告から右承諾料を受け取るのと引き換えに本件借地権の譲渡を承諾する。

被告昭二と原告とは、同年六月三〇日、東急リバブルと本件借地権の売買に関し、専任媒介契約(<証拠>)を締結し、その媒介により、平成元年四月一四日、売主を原告及び被告昭二、買主を前畑美奈子とする本件借地権売買契約が成立し(<証拠>)、被告昭二と原告は、前畑から受領した手付金七〇〇万円及び中間金一九〇〇万円の合計額である金二六〇〇万円と被告大野が立替えた金七七万五〇〇〇円の合計額である金二六七七万五〇〇〇円を被告大野を介して、同月二八日、承諾料として長泉院に支払った。

同年六月九日、被告金庫本店において、買主から原告及び被告昭二に対し、売買代金の残額である金一億四〇〇万円が支払われたが、被告大野が立て替えた右金七七万五〇〇〇円を控除した残額一億三二二万五〇〇〇円が実際の原告及び被告昭二の受領額であった。そして、被告昭二は、右金員の三五分の三〇に該当する金八八四七万八五七〇円について、同被告の預金口座にこれを送金し、残額である金一四七四万六四三〇円について、更に同被告に取り分のあることを主張し、その全額を自己名義で預金しようとした原告との間で争いとなり、話がつかず、結局、原告、被告昭二、被告大野の連名で、右金一四七四万六四三〇円を被告金庫に預金した。

四本件の争点

本件の主要な争点は、

第一に本件借地権の売買において、原告の借地権部分と被告の借地権部分とを等価とする合意であったか、被告昭二の借地部分を遺産分割時の割合どおり原告の借地部分より一五パーセント高く評価する合意であったか。

第二に被告昭二は、原告が負担すべき仲介料、測量代金、売却経費並びに原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の存在を理由として、本件預金債権が原告に帰属しないことを主張できるか。

である。

第三当裁判所の判断

一借地権の評価について

被告昭二は、原告と被告昭二とが相続した際、借地は八二坪あったが、原告の取得する借地部分を被告昭二のそれより一五パーセント低額であると評価して、原告に対し調整金五四万円を支払って分割したものであるから、特段の合意がない限り、本件売買における原告と被告昭二との分配割合に関しても同様に評価すべきであり、そうすると原告が取得すべき五坪の借地権の売買代金相当額は金一二五三万四四六四円であると主張するので、検討すると、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠は提出されていない。

1  原告と被告昭二は、遺産分割において、原告の取得割合を六、被告昭二の取得割合を四とすることにし、被告昭二の取得する借地権価格が角地であり表通りに面していることから原告の取得する借地権価格よりも相対的に高く評価され、その結果、原告の借地権の坪数五二坪、被告昭二の借地権の坪数三〇坪とし、更に同被告から原告に調整金が支払われたが、これは原告の示した条件を被告昭二が承諾したものであり、その計算の基礎とされたのはメグロ東和の査定価格と住友不動産の査定価格であった(<証拠>)。メグロ東和の査定では、借地権価格として坪当り原告側が一六八万円(ただし三六坪として計算、<証拠>)、被告昭二側が一九六万円(ただし四六坪として計算、<証拠>)であり、原告側を基準とすると被告昭二の借地権は約16.67パーセント高く評価され、住友不動産の査定では、同様に原告側が一四一万七〇〇〇円(ただし四七坪として計算、<証拠>)、被告側が一六七万九〇〇〇円(ただし三五坪として計算、<証拠>)であり、原告側を基準とすると、被告昭二の借地権は約18.49パーセント高く評価されていた(<証拠>)。

2  被告昭二が相続した三〇坪の借地権を譲渡するに当たり、地主の代理人である八木弁護士は、三〇坪では地形が悪く、譲渡の際に地主に不利に働くとして、これに一〇坪を加え、四〇坪にして譲渡するよう求めていた(<証拠>)が、これに対し原告は、五坪に限り譲渡を承諾し、八木弁護士も、併せて三五坪であればよいとして、これを承諾した(<証拠>)。その際、原告は、同時に並行して売買するとトラブルが生じやすいことから、原告がまず五坪を被告昭二に売却して、被告昭二が三五坪の借地権を売却することを提案したが(<証拠>)、同被告から断わられたため(<証拠>)、結局、原告が五坪の、被告昭二が三〇坪の借地権をそれぞれ有したままの状態でこれを併せて売却することになった。

3  本件賃借権の売買に当たって、地主に対し承諾料を支払ったが、その計算は、更地価格を坪四五〇万円、借地権価格を坪三一五万円とし、名義変更承諾料として借地権価格の一〇分の一である坪三一万五〇〇〇円の三五坪分金一一〇二万五〇〇〇円、借地目的を鉄筋に変更する目的変更承諾料として更地価格の一〇分の一である坪四五万円の三五坪分金一五七五万円の合計額である金二六七七万五〇〇〇円とされたものである(<証拠>)。その計算書(<証拠>)にも領収書(<証拠>)にも五坪分と三〇坪分とを区別した形跡は見られず、同額と評価されている。

4  本件借地権の売買に当たっては、原告と被告昭二との借地部分を一体のものとして取扱い、契約書においても、借地面積115.71平方メートルとして売却し、内16.53平方メートルが原告の、99.18平方メートルが被告昭二の各持分であることを特記するにとどまり、代金の内訳は記載されていない(<証拠>)。

5  原告と被告昭二との間で原告の借地部分と被告昭二の借地部分の評価について、本件売買に関し、具体的な話がされた形跡はなく(<証拠>。被告本人尋問一九項では三〇対五で分けないという話をしたというが、具体的ではない。)、同被告の代理人であった被告大野と原告との間で、新橋の寿司屋で同じ評価とする旨の話がされたことも窺われる(<証拠>)が、これも会食時のことで被告大野は否定をしており(<証拠>)、判然としない。

以上の事実によれば、遺産分割に際しては原告の借地部分は被告の借地部分より低く評価されたが、本件売買に際しては、原告の五坪と被告の三〇坪とを特に価値的に異なるものとして取り扱われた形跡はなく、むしろ等価なものとして、地主の承諾料、売買代金などが決められており、原告と被告昭二との間においてもその評価に関し具体的取り決めはなかったものと認められる。

ところで、被告昭二は、遺産分割時において評価が異なっていたのであるから、本件においても当然原告の借地は一五パーセント減額されるべきであるというのであるが、右分割時の評価の経緯を具体的に見ると、被告昭二の借地権を原告の借地権よりも高く評価した理由は、専ら角地ということにあり(<証拠>。画地補正表で北東プラス5と評価され、併せて間口が六メートル以上八メートル未満であることからマイナス1と評価されている)、被告昭二の取得部分を三〇坪としても三五坪としても変化はない(<証拠>)として、四ポイント高く評価されたほかは全く同じであり、外に価格差を生じる事由は見あたらない。そして、八木弁護士が四〇坪として借地権を売却するよう求めたことからも推察されるように、一般に借地全体を二分するとしても、狭い土地では単価自体が低下する上、角地に面した方が単価が高いので、売却する際は、角地部分を広く取った方が全体として高く処分ができる(四〇坪とすると間口を八メートル以上とることも可能となるから土地の評価として1ポイント上昇する)のである。そうだとすると、本件では、角地に隣接して原告の五坪分を付加して一括して売却するものであるから、この五坪が被告昭二の三〇坪と較べ、低く評価されるべき合理的な理由はなく、現に低く評価されてはいないのである。また、原告の借地権は五坪分狭くなり、間口も狭まるのであるから、残りの借地権の坪単価としては減少を来すおそれのあることを考えると、この五坪分が角地と同額に評価されたとしても原告と被告昭二に不公平を生じるという理由にはならない。更に原告は被告に自分の五坪を併せて売却するよう申し入れたことはあるが(<証拠>)、前記認定のとおり、地主の方で一〇坪の提供を求められたのに対し原告は五坪の限度で協力するとして本件借地権の売却に至ったものであって、確かに五坪の付加は被告昭二の希望したものではなかったとしても、これが加わることにより被告昭二単独の売却価格よりも安価になったというなら格別、むしろ、間口が拡がった分(評価のポイント数には変化がないとしても)相対的に高価になることはあっても安価になることは考えられないのであり、そうだとすると、原告の借地部分の五坪を区別して低く評価すべき合理的理由はないものというべきである。なお、被告昭二の主張によれば、平成二年五月九日付準備書面では、被告昭二の借地権を原告の借地権より一五パーセント高く評価したと主張し(主張一)、同月三〇日付、平成三年二月一四日付及び同年四月一五日付各準備書面では原告の借地権価格は被告の借地権より一五パーセント低額であると主張し(主張二)、いずれも原告の五坪分の金額としては金一二五三万四四六四円であると主張している(主張三)のであるが、前記認定のとおりメグロ東和、住友不動産のいずれの計算によっても一五パーセントという数字は出てこないもので、むしろ、原告の価格を基準とすると16.67ないし18.49パーセントとなるのであり、一五パーセントとする根拠が不明であるほか、この主張からも分かるように同じく一五パーセントと言っても、その理解によって、金額はかなり異なってくる。すなわち、主張一によれば、原告の借地権価格を一と評価した場合、被告昭二の借地権を1.15と評価することになるから、売買代金から地主に対する承諾料を控除した残額である一億三二二万五〇〇〇円を基準として、三〇坪に1.15を掛け、これに五坪を加えた合計で五を除した金額(これが実質的な原告の取得割合になる)を右基準金額に掛けた数字となり、これを計算すれば、一三〇六万六四五五円となる。主張二によれば、反対に被告昭二の借地権を一とした場合、原告の借地権を0.85と評価することになるから、五坪に0.85を掛け、これに三〇坪を加えた合計で五坪に0.85を掛けた金額を除した金額(これが実質的な原告の取得割合になる)を右基準金額に掛けた数字となり、これを計算すれば、一二八〇万八九四一円となる。更に主張三の金額は、基準額に五坪を掛け、三五坪で除した本件預金額から一五パーセントを控除した残額となっている(この計算ではこの一五パーセント分が被告昭二のものになるので、地主の承諾料を控除した残額を基準として原告の借地権価格を1とすると被告昭二の借地権価格は実質二〇パーセントを超過することになる。)。同様の主張であっても、その理解の仕方により五三万一九九一円の金額の開きが生じるのであり、仮に一五パーセントの差を被告昭二が考えていたとしても、なお、同被告の主張一ないし三のいずれによるのか合意をしなければ金額を確定できないのであって、この主張からは同被告自身が確定できていたかも疑問がある。

以上によれば、他に一五パーセントの評価差を設定する旨の合意の認められない本件においては、原告の借地権五坪と被告昭二の借地権三〇坪とは坪単価において同額であると認めるのが相当であり、被告昭二のこの点に関する主張は理由がない。なお、平成二年五月九日付被告昭二の準備書面によれば、被告昭二は、原告が売り渡した五坪の借地は、被告昭二が賃借して賃料を支払っていたのであるから右五坪についても被告昭二の借地権として算定すべき旨の主張がされているが、以上に認定した事実からは、右五坪を被告昭二の借地と認めることはできないから、この主張も理由がない。

二仲介手数料、測量代金、売却経費について

<証拠>によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠は提出されていない。

1  仲介手数料について

本件借地権の売却に当たっては、原告及び被告昭二と東急リバブルとの間で専任媒介契約が締結され、宅地建物取引主任者鹿間(旧姓二村)喜恵子が仲介を担当し(<証拠>)、本件売買契約を成立させた(<証拠>)。東急リバブルの手数料は、当初売買代金の三パーセントに六万円を加えた金額と約定されていた(<証拠>)が、売買代金一億三〇〇〇万円から地主への目的変更手数料金一五七五万円を控除した残額の三パーセントに六万円を加え、これから被告昭二の方で建物を取り壊し更地で引き渡すことにして更に一〇〇万円を控除した金二四八万七五〇〇円に消費税を加えた金二五六万二一二五円となった(<証拠>)が、更に被告大野の努力により、最終的には、本件預金をした当日である平成元年六月九日、仲介手数料金一九五万五三四円に消費税金五万八五一六円を加えた金二〇〇万九〇五〇円となり、全額を被告昭二が被告大野を介して支払った(<証拠>)。その三五分の五は、二八万七〇〇七円となるが、原告は現金の受渡しをする同日、<証拠>の計算式を基にして、その三五分の五を現金で支払うつもりだった(<証拠>)。なお、原告は、売却代金を小切手で受領することを希望し、右手数料は現金で持参するとしていたが(<証拠>)、本件の争いが生じ、原告は支払わなかった。

2  測量費について

本件借地権の売買は実測売買であり(<証拠>)、そのため昭和測量社により測量が実施されたが、その代金は五五万円で、平成元年六月一五日、被告昭二が全額を支払った(<証拠>)。原告は、被告大野から測量費七七万円の分担を求められていたが、測量費については、三〇坪でも同様にかかること、地主にとって三五坪としたことによるメリットのあること、長年一〇坪を被告に無償で貸していたことを理由として支払う意思のないことを被告大野に伝えた(<証拠>)。しかし、同年六月九日の現金受渡しの日に原告の受け取るべき金員を押えられたので、測量費は支払うと妥協をし(<証拠>)、原告の負担すべき測量費の三五分の五である金七万八五七一円については、法廷でこれを認めるに至っている(<証拠>)。

3  売却に伴う経費について

主張としては、金一三万六七七三円という金額があるのみで、何を指しているか不明であるが、証拠関係から善解すると被告本人尋問調書第二七項の第三の建物取り壊し費用及び第四の交通費、お礼等の諸経費を指していると考えられるが、右の建物取り壊し費用については、原告は被告昭二の登記名義の建物であるから原告の関知するところではない旨の反論を被告大野に行っている(<証拠>)ほか、経費に関する右主張を認めるに足りる証拠を見いだせないし、これを売買代金から控除するとの約定も認められない。

以上によれば、仲介手数料及び測量費は、仲介による実測売買では当然に支払うべき売買に伴う費用であり、原告は少なくともその売買の対象となる借地権割合による費用を負担すべきであり、他に費用負担について特段の合意の認められない本件においては、原告はその三五分の五の割合による費用を支払う義務がある。そして、被告昭二が全額を支払っているので、原告は被告昭二に対し、これを支払う義務があるところ、複数の売主に一括して現金で売買代金が交付された場合は、その中から共通の費用を控除して分配するのが通常であり、原告において現金で受領した売買代金である本件預金の中からこれを支払うことを拒絶する意思であるとは認められない本件においては、本件預金の内、右立替金合計額金三六万五五七八円については、被告昭二が取得すべきものと解するのが相当である(なお、被告昭二は仲介手数料について更に一五パーセントを控除する主張をする旨の記載が平成三年四月一五日付準備書面にあるが、これは、借地権の評価に差異があるとの主張を前提とするものであり、二次的には平成二年五月三〇日付準備書面の主張を維持しているものと解される。)。これに対し、その他の売却に伴う経費については、原告がこれを負担すべきであると認めるに足りる証拠はなく、かつ、本件預金からこれを負担すべき理由も明らかではないから、その控除を認めることはできない。

三不法行為及び不当利得による請求について

被告昭二は、原告に対し、第一に遺産分割により共同住宅が同被告の所有となったのに、原告が同被告にその鍵及び契約書の引渡しを拒んだことによる損害、第二に原告が借地権の売却を要求し、国土法の届出が必要となり、売却が粉糾したことによる損害、第三に遺産分割調停により債務不存在を確認したのに共同住宅明渡の和解において更新料名下に同被告に支払わせたことによる不当な利得、第四に原告は同被告の承諾を得ないで賃貸借契約書を作成して契約期間を短縮させ売買価格を減少させた損害、第五に被告昭二が本件借地権の売買に関し費やした日当相当額を、それぞれ不法行為による損害としての賠償又は不当利得として返還を求める権利を有しており、これをもって相殺する旨の主張ないしは本件預金から控除すべき旨を主張しているが、いずれも債権自体の成立に疑問があり本件各証拠によってもこれを認めがたいところ、そもそも、原告の請求は、被告金庫に対する預金返還請求権が原告に帰属するか否かを争うものであり、原告の被告に対する金銭債権が存在するわけではないから、相殺の問題は生じる余地がなく、仮に、これらが債権として成立するとしても、当然に本件預金から取得する権利を有するわけではないから、いずれにしても原告の請求に対する抗弁事由にはなりえないもので、これをもって原告の請求を拒絶することはできないというべきである。

四被告昭二について

以上によれば、被告昭二は、本件預金のうち、原告が負担すべき仲介手数料及び測量費の立替金合計額金三六万五五七八円については、自己に帰属することを主張できるが、その余の項目については、いずれもこれを認めることができない。したがって、原告は被告昭二に対し、本件預金債権金一四七四万六四三〇円から右金額を控除した金一四三八万八五二円の限度において本件預金債権が原告に帰属することの確認を求めることができる。

五被告大野について

被告大野は、第一回弁論期日に前記被告主張の趣旨の答弁書を提出し、欠席したため、自己の独自の権利主張をしないものと判断し、弁論を終結し分離したが、その後証人として証言した後、本件売買代金には被告大野の努力によって加えられた価格が含まれている旨の準備書面を提出し、弁論再開を申し出た。しかし、再開後の弁論期日に二回にわたり出頭せず、右準備書面の陳述もしなかった。以上の経緯からすると、被告大野は、敢えて本件訴訟において、自己の独自の権利主張をする意思はないものと判断される(なお、被告大野が本件売買の仲介の労をとり、原告及び被告昭二に何らかの債権を有しているとの判断は有り得るとしても、被告大野は本件売買の当事者ではないから本件預金自体について直接的な権利を有するとの解釈は、特段の合意のない限り、困難である。)。したがって、被告大野の主張は、原告と被告昭二との間の判断に従う趣旨であると解するのが相当であるから、原告は被告大野に対し、前記のとおり金一四三八万八五二円の限度において本件預金債権が原告に帰属することの確認を求めることができると解すべきである。

六被告金庫について

本件預金は、返還請求を受ければ直ちに支払うべき普通預金であり、その名義人は、原告、被告昭二及び被告大野の三名であるから、その実質的な預金債権の帰属者が確定すれば、被告金庫は、これに支払う意思であることが明らかであるから、同被告についても、原告と被告昭二との間の債権帰属の判断に従う趣旨であると解される。なお、原告は、預金の日から年0.5パーセントの割合による利息を請求しているところ、弁論の全趣旨によれば、平成元年六月九日から同月一八日まで年0.26パーセント、同月一九日から同年一一月五日まで年0.38パーセント、同月六日から年0.5パーセントであることが認められ、その後、被告金庫から原告の主張する年0.5パーセントの割合を下回ったとの主張はなく、したがって、原告は被告金庫に対し、預金返還請求権に基づき、一四三八万八五二円及びこれに対する右の利息の支払いを求めることができると解すべきである。

第四結論

以上のとおり、原告の被告昭二及び被告大野に対する請求は、本件預金債権のうち金一四三八万八五二円が原告に帰属することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告金庫に対する請求は、金一四三八万八五二円及びこれに対する平成元年六月九日から同月一八日まで年0.26パーセント、同月一九日から同年一一月五日まで年0.38パーセント、同月六日から支払い済みまで年0.5パーセントの割合による利息の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、原告の被告ら三名に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用については、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告昭二の負担とし、仮執行宣言については、相当でないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官大塚正之)

別紙預金債権目録

一 預金先 城南信用金庫本店

種別 普通預金

口座番号 五二六四二六

名義人 大野奉征・小林和夫・小林昭二

預金年月日 平成元年六月九日

預金額 金一四七四万六四三〇円

別紙不動産目録<省略>

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